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名古屋大学情報学部

スペシャルインタビュー

インタビューイメージ

心理学と、おもしろければどんな研究手法もありの認知科学に惹かれています

川合 伸幸 准教授

【現所属】大学院情報科学研究科 メディア科学専攻
【担当予定】情報学部 人間・社会情報学科

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ヒトと動物を同じ課題で比較することで、ヒトらしさや動物と共通する心の働きを知る

-先生の研究についてお話してください。

「心理学」や「認知科学」です。簡単にいうと、ヒトの心の在り方や働きを調べる研究分野です。わたしが専門とするのは、実験することで人の心の働きを調べる「実験心理学」という分野ですが、なかでも生物学とも関係の近い「生物心理学」の研究をしています。サルを対象とした研究や、ヒトの脳波や心臓の動き、嘘発見器で使われるような皮膚電気活動といった生理学的な反応を使って心の働きを調べています。

たとえば、怒ったときに身体や脳に生じる反応を、脳波や心拍を使って調べます。その実験では、相手に書かせた文章に侮辱的なコメントをつけて相手を怒らせて、怒るとどのような生理・心理状態になるかを測定します。ただし、半分の人たちには、コメントの最後に「こんなこと書いてすみません」と書いてある場合と、それがない場合を比べます。怒らせただけだと左脳の働きが活発になり、心拍と皮膚電気抵抗が高くなり、身体中が興奮状態になります。それに対して「すみません」の一文を読んだ場合は皮膚の電気抵抗だけ高くなります。これを心理尺度と合わせ調べてみると、怒った場合は相手につっかかろうとする攻撃性と不快感の両方が高くなりました。謝罪されると、心拍や脳の活動は高くならず、不快だけが高くなります。ですから不快感というものを皮膚抵抗が反映しているということがわかります。そのように調べていくと、怒りというのは一つの感情ではなく、相手に対する不快感と攻撃性がベクトルとして合わさったものであるということや、謝罪がどう効くかということがわかります。

ヘビに対する恐怖の研究もしています。ヒトは怖いもの、危ないものを早く見つける習性がありますが、ヘビは世界中の神話に出てきて、怖いものと教えられ学習したから怖いのだ、という考え方もあります。ヘビに対する敏感反応を調べるために、コアラの写真の中に一つだけあるヘビ、逆に、ヘビばかりの中に一つだけあるコアラを発見する時間を測ったのですが、コアラを発見するよりもヘビを発見する方が早いという結果が出ました。いろいろ測定すると、赤ちゃんの頃から怖がるらしいのです。しかし決定的な証拠にはならないので、研究所で生まれ育ち、ヘビを見たことのないサルを使い実験しましたが、同じ実験でやはりヘビを発見するのが早かったのです。このことから、ヒトとサルはどちらも、ヘビに対する敏感反応があると言えます。六千五百万年くらい前、ヒトとサルの祖先が同じ霊長類だった時、30メートルくらいの樹上に住んでいました。その頃に祖先を食べに来る動物といえば、ヘビか猛禽類、それにヒョウの類しかいません。高くまで上がることができ、枝の茂みに入って来られるのはヘビしかいませんでした。その頃に霊長類の種類が増え、脳は大きく進化しヘビを見つける領域が発達してきたため、その子孫であるサル私たちヒトはヘビを見つけるのが早く、敏感反応を示すということが、私たちの研究でわかってきました。

ヒトをサルと比べることでヒトの心の成り立ちがよくわかります。スマートフォンなどを買うときに、その機種のカタログだけ見ても、他の機種と比べないと良さや特徴はわかりません。共通の課題を使い、ヒトと動物を比べることで、ヒトらしさとは何か、ヘビをすばやく見つけるようなヒトとサルで共通する心の働きは何かがわかってくるのです。

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私自身がそうしたように、大学で多くの知識を身につけよう

-どのような知識が必要ですか?

実験するためのプログラムは自分で作らなければなりませんからコンピュータ・プログラムの知識が必要です。高校や大学でプログラムを習いませんでしたが、必要に迫られて習得しました。いまでは相当高度なプログラムを書きます。

実験結果を分析するためには統計の知識が必要です。そのほかに、いわゆる脳科学といわれている神経科学、生理学、遺伝子の研究知識、心理学全体の知識も必要です。しかし私は、高校で生物学も確率統計もやっていませんし、高校で習うものとはまったく違う勉強もたくさんありますので、高校で何を勉強したかはあまり気にする必要はありません。これらは大学や大学院、あるいは自分で学ぶものです。

心理学は百年くらいの若い学問 私にも何かできるかもと、志した

-川合先生はなぜ、この研究を志したのですか?

高校生だったころ、哲学的な問題を考えたり本を読んだりして興味を持っていました。大学教員になるつもりでしたが、哲学の歴史は二千年以上もあって、そんなところで自分は何もできないだろうと思いました。当時、心理学を専攻できる大学は非常に限られており、心理学はまだ百年くらいの歴史しかなかったので、それくらい歴史の浅い若い学問なら私にも何かできるかもしれないと、心理学を志しました。名古屋大学に赴任してから、ヒトを対象として研究するようになりましたが、いまでもサルの研究を継続しています。認知科学も、心理学と同じように心の働きを調べる学問領域ですが、そこで対象とするのはヒトでなくてもかまいません。人工知能によって心の働きを再現することや、ヒト以外の動物でもかまいません。心理学はある程度の歴史があるので、方法論が確立していますが、まだ30年くらいの歴史しかない認知科学は、おもしろければどんな対象を、どのような方法で研究してもよいという自由な雰囲気があります。そんな認知科学に惹かれ、10年以上認知科学の研究をしてきました。

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心理学と認知科学を一緒に学べ、文理融合の良いところが混じった研究組織

-新設学部を目指す受験生へのメッセージをお願いします。

日本で心理学と認知科学を一緒に学べるところは少ないと思います。いずれも人間のこころとは何かという問題を扱っていますが、中でも心理学は実験や調査などのエビデンスにもとづいた実証的・科学的手法を中心としており、認知科学はさらにコンピュータシミュレーション等を用いた新たな研究手法を使っています。両者が密接に関わって心の解明を目指しているという点で,非常にユニークな組織です。私のように動物に関心を持つ研究者のほかに、コンピュータで心を再現しようとする研究者、脳の働きを調べる研究者など、ヒトの心の働きをいろんな角度から理解しようとする人が集まっています。私は文学部出身ですが、いまでは生物学や工学に近いところで研究しています。文理融合の長所が混じった研究組織です。動物や人の心を調べたい、コンピュータで心をつくってみたいという人が来てくだされば、私たちも嬉しく思います。

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