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名古屋大学情報学部

スペシャルインタビュー

インタビューイメージ

人工世界が創るビックリを見つけよう

鈴木 麗璽 准教授

【所属】大学院情報学研究科 複雑系科学専攻
【担当】情報学部 自然情報学科

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仮想生物の進化が生み出す「創発現象」

-先生はどのような研究をされていますか?

コンピュータ上の人工世界に生物や人間社会の集団をつくることで、生命現象を理解し応用する人工生命の研究です。例えば、被食と捕食の種間関係から、いかに多様な生物が生まれてくるかを調べています。三次元空間にブロック型の仮想生物−親しみを込め「ジタバタン」と呼んでいます−が暮らす人工世界をつくります。そこに、捕食者生物である「タベタン」が襲ってきたとします。最初、ジタバタンはすぐに食べられてしまいますが、この世界には彼らが進化していくための要素、つまり、形や動きに違いがあること、違いが生き残りやすさに影響すること、違いが子孫に伝わりうることなどが組み込まれています。そこで、世代交代が繰り返されるとどんな生物が生まれるかを調べています。

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実際に千数百世代進化させると、例えばブロックをジタバタと動かして逃げるといった、当初はなかった新しい形や機能を持った生物が生まれてきます。主体間で相互作用したり、進化のように小さな変化が積み重なって新しい機能や特徴が生まれることは「創発現象」と言われ、特に私たちは「ビックリ」と呼んで、生命を理解する大事な鍵だと考えています。面白いのは、大きなブロックで急所を守る生物など、実験するたびにパターンの違う様々な生物が生まれてくることです。問題に対する解決法はたくさんあり、生物は進化の過程を経て新たな答えを見つける、つまり、創発してくるといえます。これが、生物が多様であることの理由の一つではないかと考えています。

創発現象にビックリし、いろんな場面で発見する力

-先生の研究内容をより具体的にするのは、どのような知識ですか?

生命現象、特に進化に関して面白い問いかけをするための知識です。また、コンピュータ上で生命現象をモデル化する技術、ジタバタンの例で言えば、進化のプロセスを表現する「遺伝的アルゴリズム」などです。でも一番大切なのは、創発現象を面白いと思える感覚だと思います。創発現象は生物集団のみならず、人間社会にも存在します。例えば「協力する」という行動が人間社会に広まるにはどんな条件が必要かといったことも人工世界をつくって調べています。創発現象の観点でみれば、生物集団と人間社会の仕組みやメカニズムには共通点があって、私たちはその特徴を情報という観点から理解しようとしています。そのためには創発現象をいろんな場面で見つけ俯瞰的に見渡す力、つまり、自然や社会をシステムとして見る力が必要です。

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進化のアルゴリズムでふにゃふにゃしたロボットをデザイン!?

-どのような場面で鈴木先生の研究分野が役立っている様子を見ることができますか?

進化のアルゴリズムは、例えば新幹線の先頭車両のデザインや飛行機の翼の設計の一部にも活用されています。今、私たちが考える応用の一つはロボットです。硬いものでできているイメージがありますが、最近はゴムのように柔らかい材質の利用も考えられています。例えば、骨のように動かない部分と筋肉のように伸び縮みする部分でできた歩くロボットを、3Dプリンタでつくるとします。形は自由に印刷できても、うまい機能や動きをさせるのは簡単でないかもしれません。そんなとき、ロボットの集団を人工世界で進化させると、初めの数世代はおぼつかない動きでも、百世代もするとうまく歩くものが創発してきます。「進化のアルゴリズムを使うとビックリするような面白い動きが自然にできた!」なんてことがもっと身近になったら、面白いと考えています。

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コンピュータと生物に対する価値観の変化、当時の私は今ある「未来」をのぞいていた

-なぜその研究を志したのですか?

子供の頃からコンピュータが好きで、プログラミングもしていました。当時は、コンピュータを面倒で煩雑なことを肩代わりしてくれるものと思っていました。けれど大学で人工生命に出会い、自分の想像を超えるものを生み出すためにコンピュータを活用する、という考え方に大きく惹かれました。実は、それまで生物にはあまり興味がなかったのですが、情報や創発の観点から見た生物って面白いと、目からウロコでした。今は、実際の野鳥の歌を調べる研究も始めています。進化のアルゴリズムは今や広く社会に応用されています。情報に関する技術への興味をきっかけに、生命の理解へと求めるものが広がったのですが、そう考えると、私はそんな未来をのぞける位置にいたのだと感じます。

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見て触れて、組み合わせる。自分らしい価値を発見しよう

-情報学部を目指す受験生へのメッセージをお願いします。

知識だけなら簡単に手に入れられる今、大切なのは自分にとって本当に面白いものを「発見する力」です。いかにたくさんの分野を見て触れて経験できる場に身を置けるかで変わってくると思います。様々な知見を組み合わせて、自分ならではの価値や面白さを見つける力が大切だと思います。情報学部は「情報」を鍵として最先端の研究をするいろんな分野の人がいて、これまで自分が目を向けてこなかったことにも直接触れられる絶好の場所。そんな場で一緒に新しいビックリを見つけられたらと思います。

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