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名古屋大学情報学部

スペシャルインタビュー

インタビューイメージ

コンピュータソフトウェアは、モノづくりでありアートです

高田 広章 教授

【所属】名古屋大学 未来社会創造機構
【担当】情報学部 コンピュータ科学科

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コンピュータは、私たちの生活の中でたくさん見かけることができる

-先生が取り組まれている研究は、私たちの暮らしの中でどんな風に役立っていますか?

今、家電のような小さなモノから自動車のような大きなモノまで、コンピュータは私たちの身の回りの様々なモノに使われています。例えば自動車、特に高級車には100個近くのコンピュータが入っています。具体的には、エンジンを効率的に動かしたり、ブレーキやステアリングを制御し安全に走らせるといった役割を果たしています。

今後ますます自動車を高度化・知能化させ、効率的かつ安全に走らせようという動きが見られます。自動運転技術が進んだら、障がい者や高齢者がもっと自由に移動できるようになるでしょう。自動運転のような人工知能は、今後、想像もつかないような進化をするだろうと思います。受験生の皆さんが現役で仕事をしている20~30年後には、全人類の脳のレベルを人工知能が上回ると言っている研究者もいます。

すべてのものを動かす頭脳、「組み込みシステム」

-先生の研究内容は、より具体的にはどのようなものですか?

その、自動車や家電製品などの機械の中に入っているようなコンピュータを、専門用語では「組み込みシステム」と言います。これをいかに効率良く安全につくるかということを研究しています。メインのテーマはOS、オペレーティングシステムの開発です。コンピュータは機械の「頭脳」です。組み込みシステムは物理世界、機械とつながっているので「安全」がとても大切なキーワードです。組み込みシステムではないコンピュータなら、扱うものは情報のみで、物理世界とはつながっていないので、被害といえば壊れることや情報を盗まれることまでに収まります。でも、自動車の中の組み込みシステムの誤動作は、自動車の暴走を引き起こす可能性もあります。人命に関わってきますよね。そこで、組み込みシステムの安全性を確保するための、様々な技術について研究開発をしています。

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対象への理解、コンピュータの知識、安全への意識により、より良い世界が現実となる

-どんな知識を使って実現するものなのですか?

自動車など、制御する対象についての知識も必要ですが、それ以上にコンピュータの動作原理、どんな時にどう動作し、誤動作した場合どんなことが起きるのか?といった事を分析する能力が必要です。世の中は「IoT(Internet of Things)」、モノのインターネットと言って、あらゆるものがインターネットにつながる高度化・知能化された世界へ向かっています。そうすると「セキュリティ」をどうするかという新しい課題もついてきます。例えば、サイバーアタックにより湯沸かしポットから急に熱湯が出たら危ないですよね。家に帰ったらロボットが暴れていたり・・・。自動車を誤動作させるサイバーアタックが現実的に可能なことが、学会では発表されています。高度情報社会の実現は、危険性も同時にはらんでいるのです。先ほども「安全」がキーワードだと言いましたが、それを意識して研究開発に取り組むことが重要だと思います。

「自分達でやれるんだ!」の感動と「作りたい」の欲求から、組み込みシステムの世界にのめり込んでいった

-高田先生はなぜその研究を志したのですか?

小さい頃からコンピュータが好きでした。組み込みシステムの研究のためには、コンピュータの動作原理を全て理解している必要がある、つまりコンピュータの基礎から全てわかってしまうということなんです。ということは、自分の指令通りに、コンピュータが動くんですよ。そんな「自分達でやれているんだ!」の実感が面白くて、この分野に深入りしていきました。

もともとモノをつくることが好きで、ソフトウェアは「情報」で、物理的な形はないけれど、ソフトウェア開発は「モノづくり」だと思ってやってきました。完成したら楽しいし、役に立ったらとても嬉しい。実は、私は、趣味を仕事にしてしまったという感じで、趣味と言うものが無いんですよ。ソフトウェアを作るのがとても好きでなんです。インフルエンザにかかったら、喜んで休んでプログラミングしちゃいます(笑)。それくらい力が出るんですね、好きなことに集中するって。大学生は極端な話、100%自分の好きな研究に取り組む自由があるのだから、興味を持ったらとことん追求すると良いですよ。

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「新しい価値の創造」に必要なことー遊び心、協業(コラボレーション)、発想力、美意識を持って高度情報化社会に向き合っていこう

-情報学部を目指す受験生へのメッセージをお願いします。

今でも情報は様々な価値を産み出していますよね。例えばSNSは、コミュニケーションの形を変えました。検索エンジンは、ものの調べ方を変えてしまいました。これらは、何かの課題解決のために作られたのではない。「何か面白いものを作ってやろう」という遊び心からできたものも多く、結果、社会になくてはならない道具となったわけです。これからも、今まで存在しないものが出現し、世の中が変わることってあると思うんですが、その大半は、情報技術によるものだと考えています。そんな新しい価値を産み出すには、異なる分野の専門家との協業(コラボレーション)が必要だと考えています。

新しい価値創造は同時に「セキュリティをどうするか」という新しい課題、SNSであれば個人情報の取り扱いについて、私たちに投げかけました。自動運転車なら、例えば避けられない障害物があった場合、それでも直進するか?左右どちらかへ曲がるべきか?で、ダメージを受ける人が変わってくる。自動車にどう判断させたら良いか?これは技術の専門家だけでは解決できない問題です。人はどう変わっていくべきなのか?社会はどう受けいれるのか?までを考え合わせないと、良いモノも社会もつくれません。情報学部には、私のようなコンピュータの専門家に加えて、人と社会のスペシャリスト、心理学や社会情報学、哲学などの研究者もいます。多様な人とコラボレーションをし、情報社会に潜むトラブルを予見し発想し合うことで、新しい価値を産み出すことができると思っています。

最後に、プログラム作りって芸術に近い、機能的だけど美しさも合わせ持つ建築に似ていると思うんです。「キレイだな」と感じるプログラムって、指令がストレートで論理的で、何を言いたいのかが他人にも理解できるものだったりするんですよ。関わるものは工業製品だから、要求されたことを満たすのは大前提なのだけれど、その上で「キレイ」「カッコイイ」の美意識も持ってほしいですね。共にチャレンジできる学生を待っています。

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