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名古屋大学情報学部

スペシャルインタビュー

インタビューイメージ

人工知能のトップ研究者、情報科学の未来を語る

武田 浩一 教授

【所属】大学院情報学研究科附属価値創造研究センター
【担当】情報学部 コンピュータ科学科

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情報科学の世界で研究者をして30年以上になりますが、コンピュータが人の話す言葉、特に文字になった書き言葉を自在に操れるようにしようということを中心に研究をしています。国際的に通用する研究というのは英語を対象とすることが多いのですが、やはり日本語は母国語ですし、両方できるということは重要ですね。最近では、中国、韓国、他にもアジア各国の言語も非常に人気の高い言語になっています。

人の脳はミステリーなまま、人工知能の実現は本当に大変

-言語をコンピュータにインプットさせるためにはどういった技術が必要ですか?

コンピュータに言語を理解させようとして、おそらく60年ぐらい世界的に研究されてきましたが、当初はもっと楽観的に考えていたんですね。人間同士のコミュニケーションだとほとんど意識はしないのですが、人は目に見えるものを理解して、言葉でコミュニケーションをして、音声を聞き取って、感情や思考を言葉に翻訳する、言葉の世界として受け止めるという物凄い能力を持ってるのです。これを、人工知能の研究では人の知覚、認知能力やコミュニケーション能力、それをできるだけ忠実に、実現しようとしていたのですが、実際にコンピュータで実現しようとすると本当に大変です。人の脳の機構のほとんどは相変わらずミステリーなままですので、あくまで入力に対して、どんな反応をするかということを一生懸命コンピュータで模倣するようなことから研究が進んできた、それが上手くいきつつあるということですね。

ビッグデータと画像認識が人工知能を進化させる

-武田博士が考える人工知能の現在と未来とは?

今は、個人でもスマホを持っていて、そこから行動履歴や、対話の内容など、人の振る舞いそのものがデータとして蓄積できますから、人の行動や判断をデジタルで記録しやすくなっています。そういった大量のデータを集めることで、より人がどういう考え方や行動をしやすいか、ということを学習しながら、仮説を立て、モデルで人を説明しようとする研究が進むと思います。大量のデータを背景に、その人の知的な行動を説明付けるような能力についての、理論的な研究と、実装する研究・開発の両方が進んでいくと思います。

もうひとつは、ここ数年でコンピュータでも画像に表現されているオブジェクトが何かということを高い精度で認識できるようになってきたことがあります。人は視覚的な情報と経験・常識などそれ以外の色々な情報も含めて、総合的な判断をします。自動車の運転技術もそうですし、医師が患者の顔色一つ見るにしても、話し方や目線などの音声・画像情報と全て総合して考えます。コンピュータが認識した画像がきっかけになって、テキストと音声データも含めて、多様なメディアからそこで表現されてるものや、それがどういう状況かということはある程度分析、理解ができるという方向に進んでいく、人にしか出来なかったことが部分的にコンピュータで実現されつつあるという変化が起こると思いますね。

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人工知能が人間のクイズ王に勝利!

-コンピュータが人間のクイズ王に挑戦するというプロジェクトにも関わられたとお聞きしました。

ちょうど2011年にIBMが会社として100周年を迎えるにあたり、基礎研究所でも大きなテーマに取り組もうということで、クイズ番組にコンピュータを登場させて、人間のチャンピオンと競い合おうという発想をしたのが、恐らく2003年頃です。当時は誰もそんなことできると思わなかった。2006年くらいになって、アメリカの研究所を中心に前向きに考え始めて、プロジェクトがスタートしました。2007年には、言語処理技術の研究者を総動員して、IBMの研究所全体でこの問題に取り組み始めました。私達はその時から参加をして、実際の対戦が2011年の2月でしたから4年間ぐらい研究に携わりました。
最初にその話を聞いたときには、よくまあそんな大変なテーマを考えついたなと感じました。ただそういう大きなプロジェクトって10年とか15年に1度しかないものですから、仮に短期的に成功しそうになくても、エキサイティングなプロジェクトだって気持ちはありました。
(注記:IBMが開発した質問応答システム"Watson"が2011年に米国のクイズ番組"Jeopady"に出場し当時のチャンピオンに見事勝利した)

結果として第一回目の挑戦で無事にチャンピオンに勝つことができたので、なんだか思ってたよりは簡単に終わったような印象があります。それはやはり、ウィキペディアとか、インターネットに存在する大量のデータが、質問に正しい解答を計算するための有力な情報源になったということが大きかったですね。

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サイエンス領域としての情報科学を成熟させたい。

情報科学を研究するものにとっては、物理や数学と同じ大きな科学、サイエンスの領域としての情報科学を成熟させたい気持ちは大きいですね。単にコンピュータに計算をさせる道具として、単に工学的に使うだけではなくて、その裏には、色々な研究の原理や理論の実装などがあると思います。ひとつは自然、物理、化学と同じで、ある種のミステリアスな存在に対する好奇心、もうひとつは、人の知的な能力をコンピュータのような形でもっと大きなスケールで高速に実現できるかというモノ作りの原点みたいなところ、両方に興味が持てるような人には凄く楽しい分野だと思います。

今の十代の方っていうのは、たぶん、インターネットやスマートフォンなど、コンピュータの存在する世界とは切っても切り離せない。日常でクールだと感じることや、今までに無かった体験をするというのは、間接的にもコンピュータを使った何らかのサービスに触れられてのことが多いと思います。
人の生活の変化だとか、より新しい知的好奇心だとか、自分自身の能力を広げてくれる方向にコンピュータが使われるということは今後もきっと多いはずです。 そういう世界を実現するときに、日常のイマジネーションだとか想像力をもった若い学生の方の存在が不可欠ですので、ぜひ情報科学の分野を目指して欲しいと思います。

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